FCバルセロナのユニフォームとユニセフ
世界各国の有名選手が集い、日本で開催されたFIFAクラブワールドカップで優勝したこともある世界的なビッグクラブ、FCバルセロナ。「バルサ」の愛称で呼ばれ、サッカーに詳しくない人も、一度は名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。(※日本の人気漫画「キャプテン翼」の主人公、大空翼が入団したことも有名)
2006年9月以前、1899年の創設から約107年もの間、FCバルセロナのユニフォーム前面にスポンサーロゴは一切入っていませんでした。それまで決して使用を許さなかったユニフォームに、2006年9月12日からユニセフ(国際連合児童基金)のロゴが入りました。
ユニフォームに印刷されたロゴ
多くのサッカークラブはスポンサーから資金提供を受け、その代わりにユニフォームにロゴを入れてています。スポンサーはさまざまで、クラブの親会社であったり、地元企業やグローバル企業、業界や業態もさまざまです。
ちなみに、スポンサー料によってユニフォームに占めるロゴの大きさや場所が決まるそうです。胸や背中など大きく表示できるスペースはスポンサー料も高く、袖や襟などは少ないらしいです。(襟って、誰が見るんだ!?)
サッカークラブにとって”あたりまえ”である「ユニフォームへのスポンサーロゴの表示」を、なぜFCバルセロナは100年以上もしてこなかったのか。そんなバルサがユニフォームにロゴを入れた要因はいくつかあったようです。。
FCバルセロナはなぜロゴを入れなかったのか?
FCバルセロナは、1899年に創設されたスペインのバルセロナを本拠地とするサッカークラブチームです。創設以来「単なるサッカークラブ以上の存在(more than a club)」というスローガンを掲げ、オーナー企業がなく、”ソシオ”と呼ばれる会員によって運営されてました。
2006年現在、FCバルセロナのソシオ(会員・サポーター)は全世界に15万人いると言われており、日本にも1500人いるそうです。ソシオになると、4年に一度行われるバルサの会長選挙へ投票する権利を得られ、 年に一度開催される総会に参加できる可能性が得られます。
「バルセロナはフットボールクラブ以上の“何か”である。それは日曜日にプレーを観に行く場所であり、単なる娯楽以上の施設である。すなわち、全てのもの以上の存在であり、それは我々の心の中に深く根ざしている精神、カラーである」
バルサは伝統を捨てたのか? 経営面から見る胸スポンサーを導入せざるを得なかった理由 | フットボールチャンネル
これは1968年の1月17日、第32代FCバルセロナの会長に就任したナルシス・デ・カレーラスの就任演説の一部であり、現在バルサのスローガンとして定着した『mes que un club(クラブ以上の存在)』のきっかけとも言われる演説である。
一般的なサッカークラブの収入源は、1980年代までは主に、クラブ会員の会費や試合の観戦チケットの売り上げが大半を占めていました。その後、民間のテレビ局が台頭し、テレビ放映権料が従来の収益を大きく上回る収益源となりました。
それでも、昔からある人気クラブに比べて新興の地方チームは収入も多くないため、スポンサーから資金を得る代わりにユニフォームにロゴを掲載してきました。
FCバルセロナは多くのソシオ=会員・サポーターに支えられてきたから、約100年もの間、商業的な理由でユニフォームの胸のスペースは利用されてこなったんですね。
バルセロナがユニセフのロゴを入れた意味とは
そんなFCバルセロナが、使用を決して許すことの無かったユニフォーム前面のスペースにはじめてロゴを入れたのは、ユニセフのロゴでした。
ユニセフのロゴを入れた理由は、HIV/エイズの影響を受けている困難な状況に置かれている子どもたちのため、ユニセフが展開する『子どもとエイズ』世界キャンペーンにパートナーとして参加することが決まり、世界のサッカーファンに向け、キャンペーンへの支持することを伝え、参加を呼び掛けるためです。
75%のHIV陽性の新生児を助けることができる
2008年12月1日、「世界エイズデー」に国連で行われた「子どもとエイズ」に関する最新の報告書の発表会見に、FCバルセロナのホアン・ラポルタ会長も招かれました。この会見で、アン・ベネマン・ユニセフ事務局長は「HIV陽性の新生児でも、生後12週間のうちに治療を開始すれば、生存率を約75パーセントも高めることができる」と述べました。
ホアン・ラポルタFCバルセロナ会長は「FCバルセロナは、マラウイ、アンゴラ、スワジランドのHIV/エイズ撲滅活動支援のために、ユニセフに対して5年間にわたって、合計1,000万ドル(約10億円あまり)を提供します。FCバルセロナは、ユニセフを通して社会に貢献しています。」と5年契約での合意を表明しました。
これにより、他サッカークラブは位置付けがかなり異なる、クラブ史上初の胸部分にロゴを入れたユニフォームが使用されることになったのです。
この他にも、FCバルセロナは、今後5年間にわたり、毎年190万ドル(2億2,200万円余)、総額950万ドル(11億1,100万円余り)を、子どもたちを取り巻くエイズ諸問題の解決、特に、エイズによって親や保護者を失った子どもたちの保護のためにユニセフに提供します。さらに、スペイン国内や海外遠征先等でも、ユニセフのキャンペーンへの支持・募金を呼びかけてゆく予定です。
FCバルセロナ ユニセフとの歴史的パートナーシップを発表
その後、FCバルセロナとユニセフとのパートナーシップは続き、2016年には10周年を迎えました。
スポーツを通じた国際協力のキャンペーン
これまでも、サッカー選手が個人でチャリティーやキャンペーンに参加・賛同することも多くありました。
ユニセフはこれまでもサッカー選手を起用したキャンペーンを行ってきました。ユニセフの他にも、国連開発計画(UNDP)の貧困撲滅キャンペーンにロナウドやジダンらが参加したことがあります。
サッカーは時にサポーター・観客による人種差別が指摘されることもあります。そんな差別に立ち向かう選手や、祖国で貧困に苦しむ子どもたちの支援をする選手もいます。
サッカークラブも、ファンとの交流イベントなどで地域との交流やスポーツ発展に貢献してきました。ですが、これほど大きな課題に対するキャンペーン、賛同というのは、他に例がありませんでした。ユニセフとの協力は、世界的なビッグクラブであるFCバルセロナだからこそできたのではないでしょうか。
サッカーは世界中の人が愛するスポーツであり、世界のさまざまな課題解決に貢献できるポテンシャルを大きく秘めていると感じます。