7億8,100万人が文字を読めない-世界の識字率

世界では、約5900万人(*1)の子どもたちが学校に通えず、
7億8100万人(*2)の成人が読み書きができないと言われています。

この数字をみて、どう思いましたか?

本や新聞を読む。
道路の標識や地図を見る。
手紙を書いたり読んだりする。
買い物のお釣りを計算する。

私たちにとっては、ごくあたりまえなことのように思うかもしれませんが、
「読み書きそろばん」、つまり文字の読み書きができる能力のことを「識字」と言います。

逆に「文字が読めない・書けない」人のことを「非識字者」と呼びます。

そんな非識字者が7億人以上いるのはなぜなのでしょうか?
文字が読み書きできない原因と問題点について考えてみましょう。

識字率が高いアジアと低いアフリカ

2015年現在、成人の非識字者は約7億8,100万人いるといわれています。その3分の2は女性です。読み書きができないと、必要な情報を手に入れることができず不利益を被るばかりか、意思や要求を書面で伝えられず社会的な権利が大幅に制約されます。本人ばかりでなく、国や地域の発展にとっても不利益になります。

では、どんな国が識字率が高く、低い国はどんな国なのでしょうか?

【アフリカ】 【アジア】
ギニア 30.4% アフガニスタン 38.2%
ブルキナファソ 36.0% パキスタン 57.9%
マリ 38.7% ネパール 63.9%
コートジボワール 43.1% インド 71.2%
エチオピア 49.1% ラオス 79.9%

出典:総務省統計局発行「世界の統計」より「15-6 男女別識字率(2015年).xls」

アフリカの識字率が全体的に低く、全体的に識字率の高いアジアの中でも、アフガニスタンはとても低くなっています。
IT産業を中心に経済発展を遂げているイメージの強いインドでさえ、識字率は71.2%です。

出典:UNESCO Institute for Statistics Fact Sheets “Adult and Youth Literacy", September 2015

文字が読めない理由

なぜ読み書きができない人(非識字者)が多いのでしょうか。識字率が低い背景には、さまざまな要因が考えられます。識字率が低い代表的な要因を5つご紹介します。

1)学齢期に教育を受けることができないから

世界には、教育予算が少なく、授業料が無料ではない国が多くあります。貧困家庭の子どもや孤児は、学費を払えず、学用品を買うお金がなかったり、家計を助けるために働かなくてはならず、学校へ通うことができない傾向にあります。また、学校教育の質も低く、親が「子どもを学校に通わせる意味がない」と考えることも少なくありません。

2)近くに学校がないから

2000年以降、14の国で小学校の授業料が無料化され、生徒数が増えました。しかし、増えた生徒数に勉強を教えられるだけの学校がありません。もっとも近い学校が何十キロも離れていたり、雨季に道路が冠水したり、通学することが難しいことも多々あります。

3)女の子は学校に通う必要がないと考えられているから

途上国では、女の子よりも男の子の教育にお金を使う傾向があります。学校には女性用トイレがなかったり、女性教員が少なかったり、女の子が通える環境が整っているとは言えません。また、望まない幼児婚をさせられ、学校へ通わなくなってしまう女の子も少なくありません。そのため、世界の非識字者の3分の2が女性とも言われています。

4)先生の人数が足りないから

カンボジアでは一人の教師が50人の生徒を、モザンビークでは67人の生徒を教えています。教員の多くは一般的な公務員より安い賃金で働き、病欠中の賃金や年金などの保証もないため、教員の無断欠勤や人数の減少がおきています。2006年にザンビアのNGOが試算したところ、一世帯あたりに必要な生活費410ドル/月に対し、教員の平均給与は191ドル/月でした。タンザニアでは、2000年から2002年の間に教員の42%がエイズ関連で死亡しました。

5)家で話す言葉と学校で教わる言葉が違う

少数民族が通う場所への学校建設を後回しにする国もあります。少数民族の言語での授業を認めなかったり、現地語を理解する教師が不足していることも多くあります。家で話す言葉と学校で教わる言葉が違うため、勉強についていけない生徒は自然と学校から離れて行きます。

日本でも、江戸時代の末期、幕末の識字率は世界的にも高い水準にあったたようですが、それでも女子の識字率は21%でした。

幕末期に来日した西欧人達が日本の識字率の高さに驚いたことは複数の文献で伝えられている。幕末期(1854-61年頃)の江戸 の識字率は男子が79%、女子が21%で、武士は殆ど100%読め、農村の僻地でも20%は読めたという。これは当時の世界の中では群を抜いていた。明治 になり福沢諭吉は「通俗国権論」で幕末の日本の識字率は世界一であると誇っている。出所:江戸の識字率

文字が読めない状況を疑似体験 「水と薬、ときどき毒」

文字が読めないとどう困るのか? 文字が読めない非識字体験をしてみましょう。

突然ですが、クイズです。
下の3つのグラスの中から"薬"を選んでください。

【状況解説】

「あなたの子どもが高熱を出して苦しんでいます。 でも近くに病院はなく、医者のいる町へ出るには山道を1日歩いた上にバスに7時間も乗らなければなりません。 いつもは先生が薬を出してくれますが、先生は町に出かけて留守です。 いつも先生が"薬"を取り出している棚には、薬はもちろん、水やネズミ除け用の農薬(="毒")がしまってあります。」

さぁ、3つの中から"薬"を選びだすことはできますか?

 

文字を読むことができないと、"薬"を選ぶことはとても難しいと思います。

ちなみに正解は、一番右側が薬です。
カンボジア語(クメール語)で左から「水」、「毒」、「薬」と書かれています。

識字率の向上は貧困解決に

文字の読み書きができることによって、貧困解決に効果があることが統計的に証明されてます。

  • 母親が読み書きできると、5歳未満の乳幼児死亡率が低い。
  • 女性の識字率が高いと、女児の就学率も高い。
  • 成人識字率が高いと、小学校5年次まで在学する児童の割合も高い。
  • 識字率の高い国は、平均寿命が長く、一人あたりの収入や農業生産性が高い。

すべての人が読み書きできようになるためには、年間1兆円の援助が必要と言われています。しかし、実際は半分以下の4,600億円しか教育分野に援助されていません。年間1兆円を援助するため、国の豊かさに応じて分担したとすると、日本は1,300億円を援助する必要がありますが、日本の援助額は300億円にとどまっています(*3)。

2000年に識字率が95%以下だった73ヵ国のうち、2015年までに非識字率を半減できた国はわずか17ヵ国だけでした(*2)。

9月8日は「国際識字デー」

識字の重要性を世界に訴えかける日として、1965年にユネスコが9月8日を「国際識字デー」と制定しました。文字を読んだり、書いたりすることは、わたしたちにとって"あたりまえ"なことかもしれませんが、世界には、それが"あたりまえではない"人々がいます。そんな世界の現状に対し、ぜひあなたにできることをぜひ考えてもらえると嬉しいです。

「文字を読む」。私たちにとっては「あたりまえ」のことかもしれませんが、ぜひ世界の識字の現状について考えていただけると幸いです。

文字の読み書きを学ぶことが貧困から抜け出すきっかけに

文字を読めない人の多くは、貧困のため教育が受けられなかった人たちです。その貧困から抜け出す力となるのも「読み書き」です。文字が読めないため、学校の授業についていけずドロップアウト(中途退学)してしまう少数民族の子どもたち。学校へ通い文字の読み書きを習ったとしても、周りに本がなく、読む機会を失い、せっかく覚えた文字を忘れてしまう人々も。

1冊の本と出会い、未来を切り開いた人々のストーリーを紹介したこの本には、読み書きの大切さが詰まっています。

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出典

*1) “A growing number of children and adolescents are out of school as aid fails to meet the mark"
*2) “Global Monitoring Report – Education for All 2000-2015: Achievements and Challenges"
*3) 「世界中の子どもに教育を」キャンペーン2009